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〜 『 い〜の〜ち〜 み〜じ〜かぁし 〜 恋〜せ〜よ〜 お〜と〜め〜 』 〜
● ストーリー
・男手一人で息子を育て、市役所では市民課長でありながら、陳情におとずれる市民の声に親身になることも無く、たらい回しのお役所仕事しかせず無気力な日々を過ごしてきた公務員の渡辺(志村喬)は、健康診断の結果、自分は末期の胃ガンであと半年の命と偶然知ってしまう。愕然とし、会社を休み、恐れおののき、嘆き悲しみ自暴自棄になった彼は、以前、公務員を退屈といって辞めた若い娘・小田切とよ(小田切みき)の「課長さんも何か造ってみたら」というなにげない言葉から、まだ自分にできる事は何かあると気づき、欠勤していた市役所に出社。その日から彼は残り少ない命をかけて、あるプロジェクトに心血を注ぎ、死力を尽くしていく・・…。
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● 解説&見所
物語のはじめ、ボールペンをぶらぶらさせて市民の陳情を上の空で聞く職員。この全く同じボールペンのしぐさをする公務員をつい先日、地元の市役所で見た時にはあ然としました。
60年も前の映画で描かれ、その後も連綿と続くお役所体質は、新聞記事になるたびに現在でも何も変わっていず、むしろ悪化しているような、無責任な不祥事の事件報道は日常茶飯事に見聞きします。
今更ながら、黒沢明監督の現代でも充分通じる着眼点&観察力、徹底したリアリズムには恐れ入りました。
この物語の主人公、渡辺は、自分が末期の胃ガンと知った時、誰も何もしてくれず、力にもなってくれません。息子にさえそっけなくされ、打ち明ける事が出来ず失望します。それがいかに頼りなく、寂しく、空しく、情けない事か!
しかしそれは、行政に嘆願書を提出しても、誰も親身にならず、陳情をたらい回しにされた映画冒頭の市民の姿と全く同じなのです。
たらい回しにされた人々は、頼りなく、寂しく、空しく、情けないと落胆したことでしょう。
黒沢監督はそれを強調する為に、末期ガンという決定的な重荷を、志村喬演じるこの一公務員
・渡辺に課せたのではないでしょうか。
この主人公は死期がせまった土壇場でやっとそのことに気が付きます。ただ自分を守る為だけに無難に過ごしてきた定年までの公務員としての人生で、自分は一体何をやってきたのか?
以前、公務員を退屈といって同じ課を辞めた若い娘・小田切とよ(小田切みき)の「課長さんも何か造ってみたら」というなにげない言葉が、渡辺の心に響きます!!
そして遂に、心の奥底から、魂の言葉をつぶやきます。
それは、 ↓
「もう遅い・・・。」
「・・・・いや!!遅くは無い!!」
「遅くは無い!いやっ無理じゃない!!」
「遅くてもやれば出来る!!」
「ただやる気になれば!」
「私にも何か出来る!!」
こうつぶやいて、彼は失意で無断欠勤していた市役所に出社します。やがて、数ある嘆願書の中から懇願する人々の願いが多い公園を作ろうと立ち上がります。役所内でのたらい回しや門前払いにも各担当者・担当部門の承認が降りるまであきらめず粘り強く交渉を続けるその姿。利権にからむ地元のヤクザの脅迫など、死を目前にした彼には効きません。かえって渡辺の死を覚悟した鬼気迫る笑顔に後ずさりする様です。こうして短い命をかけて、徐々に体力を失い、歩くのもやっとになりながらも死力を尽くしていく渡辺。
そして何度も立ち消えになりかける計画を最後まで粘り、見事小さな公園は完成します。
そして・・・・。
その完成した公園のブランコにゆられながら、雪の降る中、自分の持ちうる力、全力を使い果たし、達成感に至福の喜びを感じながら、「 命みじ〜かし〜 」とゴンドラの唄を満足そうに静かに歌います。
★ 志村喬演ずるこのシーンの渡辺の姿は悲しくも美しい、日本映画屈指の感動の名場面です ★
ひとりの公務員の生き様を通して描かれた社会正義&人間ドラマ。ここまで鋭いテーマ性&風刺の利いた映画にはなかなかお目にかかれません。
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この映画から60年後の実際の今の私達の社会はどうでしょうか? 官僚主義、公務員の利己主義丸出しの天下り、ほったらかしの年金に年金偽装問題、自分達の不正・失敗はコソコソと偽装してまでもひた隠しにして、警察は民事不介入といって積極的に犯罪に向き合わず、病人や妊婦をたらいまわしにする人命無視の医療制度。経済悪化を言い訳にして、各市町村では勝手に生活保護を打ち切ったり、認めなかったりやりたい放題の人権軽視。リストラや経済苦により10年以上続く年間3万人を超える自殺者。企業による一方的な派遣切り、リストラ当事者による自暴自棄な犯罪やネットカフェ難民など、今現在私達の周りに問題は山済みです。
これら全ては国政をあずかる公務員たちの、社会正義と良心の欠如。自分達さえよければいいという利己主義。決められた事しかやらない責任感の欠如・・・等等、これらからくる当然の帰結という病気でいえば、ガンと同じ末期的状況です。
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しかし、ガンと同じ末期的状況であっても・・・。
どんな事も全てはこの主人公・渡辺(志村喬)のつぶやいた、<魂の言葉>で解決できる事ばかりだと黒沢監督は言わんばかりです!
それは、末期ガンにならずとも、「 あなたたち(公務員)には出来る事があります。ただやる気にさえなれば。遅くは無い!
」と訴えかける強烈なメッセ−ジです。
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この映画は一般の人はもちろん、公務員になる方には必ず見てもらうべき作品です!
名バイプレイヤー志村喬の唯一の主演作にして、最高傑作。
★ 心が洗われ、涙なくしては見られない、生きる事の意味を問う感動の名作です ★
是非ご鑑賞ください。
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- ・公開年 : 1952年10月9日
- ・制作国 : 日本
- ・上映時間 : 143分
- ・仕 様 : モノクロ
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・名作度
・スト−リ−
・志村喬 度
・人生教訓 度
・感涙 度数
・度数
・ハッピーエンド
・購入してゆっくり楽しむ。
・簡単レンタルで楽しむ。
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生きる